投資とギャンブルの違いと類似点について考える

2021年はコロナ禍の中、世界的な資産価格の上昇で幕を開けました。
ビットコインは5万ドルをつけ、日経平均も30年ぶりに30,000円の大台に乗せました。

実体経済との感覚の違いから、

「これはバブルだ!」

という意見から、

「ビットコインはともかく、株はコロナ後の経済成長を織り込んでいるだけだ」

という意見まで様々見られます。

市場が盛り上がってくると見られるのが、

株みたいなもの、あんなのはギャンブルだ
いやいや、投資は真っ当な経済活動であってギャンブルではない

という話題です。

個人で投資をされている方などですと、投資はギャンブルではないという根拠をツイッターなどに書かれている方も見受けられますね。

ただ、投資対象は債券や株式、FX、ビットコイン取引など様々存在し、これらをまとめて同様に扱うことはできないと思います。

私の考えでは、投資商品によっては投資とギャンブルは実は似ている点はたしかにあり、一方で明確に異なる点もあります。

ここでは、投資とギャンブルの似ている点と異なる点について、証券アナリストの資格を持つ私が考えてみたいと思います。

投資とギャンブルの類似点

投資もギャンブルも偶然による損益の不確実性が大きい

株式投資などの投資とギャンブルの類似点は、儲かるのか損するのか終わってみないと分からず、損益は偶然の出来事によって決する点です。
投資もギャンブルも損益の不確実性が大きいですし、一度賭ければ自分の努力ではどうすることも出来ない偶然の結果で損益が決まるのです。

もっと言えば、どちらもお金を馬なり金融商品の値動きの方向なりに賭けている行為だといえます。

朝、競馬場に遊びに行って12レース全部勝負して、そして家に帰る時に財布の中身が増えているのか減っているのかは、朝の時点では誰にも分からないですし予想もつかないのです。

同様に、今日株を買って1年後にそれが儲かっているのか損しているのかも誰にも分かりません。

この点をみて、「株はギャンブルだ」と言う人もいます。

私も金融業界、というかマーケットの世界で仕事をしていて証券アナリストの資格を持っていますが、金融商品に賭博性があることは否定しません。

FRAの例

金融商品であるデリバティブ取引の一種に、FRA(Foward Rate Agreement)という金利スワップ取引があります。

FRAは金利先渡取引のことで、将来の金利をあらかじめ決定するという取引です。

例えば、あなたがBさんを取引相手に、今晩発表される金利指標である6か月物LIBOR (ロンドン銀行間取引金利)で計算された利息をBさんから受け取る代わりに、Bさんに対して〇〇%支払います、という契約を結んだとしましょう。

この例の場合、LIBORがあらかじめ決められた〇〇%より高ければあなたの勝ちでBさんの負け、LIBORが〇〇%より低ければあなたの負けでBさんの勝ちです。

この例でのあなたは、自分が支払う金利〇〇%より今晩発表されるLIBORの方が高いと予想したからこの取引に応じたわけです。

つまりこのFRA取引の本質は、今晩発表されるLIBORが高いか低いかを当てるゲームなのです。

このFRA取引は日本においては1990年代前半頃までは賭博罪に抵触する恐れがあるとして、大蔵省によって事実上禁止されていました。

ただ、現在保有するポジションの金利変動リスクをヘッジするのにFRAを活用したいというニーズや海外市場との同等性の観点から、現在は解禁されています。

そもそも、金融商品取引法でFXなどを含むデリバティブ取引が金融商品と定められていることが、デリバティブ取引の適法性を担保したり違法性阻却事由になっているのです。

このことからも、投資にはギャンブル性が含まれていることが見てとれます。

 

投資のギャンブル性は金融商品によって程度の差がある

債券投資は株式投資と比べてギャンブル性が少ない

投資にはギャンブルと類似する点があると言っても、株や債券など金融商品によって程度が異なります。

例えば、一般的な債券の場合は株式と比べてギャンブル性が少ないと言えます。

例えば、あなたは年利2%で5年満期のソフトバンクの普通社債100万円分を購入したとしましょう。
すると、ソフトバンクが倒産するなどして借りた金を返せないなんて事にならない限り、毎年あなたは利息として2万円(税抜前)受け取ることができ、5年後には100万円が戻ってきます。

この間、ソフトバンクの財務や事業環境、市場金利によってあなたのソフトバンク債の値段は上下します。

でもそんなことはプロの世界の話であって、あなたの債券が値上がりしようが値下がりしようが、あなた自身の知ったことではないのです。

ソフトバンク社債の値段がどうなろうと、あなたは5年間待っていれば利息と元本を得ることができるので、非常に賭博性が少ないと言えます。

債券投資をもって「ギャンブルだ」というのはナンセンスですね。


一方で、株式投資はそうはいきません。

株の場合、債券と違って配当の有無や金額は決まっていませんし償還もありません。

株を買ったらだれかに転売するなり投資した会社が解散しない限り投下資本は戻ってこないので、債券投資と異なり市場価格を気にしなければならないのです。

このことから株式投資は不確実な値上がり益を求める性質が強く、ギャンブル性が強いと言えます。

一般的に債券を英語にすると「Bond」と言います。
一方、証券会社のマーケット部門では「Fixed Income Securities」なんて言ったりします。
おしゃれですね。

Fixed Income Securitiesを日本語に訳すと、確定利付き証券です。
つまり、さきほどのソフトバンクの例のように利息が決まっている債券のことを指します。

なお、利息が変動するフローター債のような特殊な債券はFixed Income Securitiesとは言いません。

 
なお、債券投資は賭博性が少ないと言っても、それは利回りが確定していてきちんと満額償還される、先ほどのソフトバンクの例のような普通社債や割引債と言った債券の話に限ります。
利息が変動するフローター債やリバースフローター債は利回りが安定しない分、一般的な債券よりギャンブル性があります。
更に為替リスクを伴う外債投資や、裏にこっそり株式のプットオプションの売りが仕込まれているデジタルクーポン債のようなものは、償還時に元本割れのリスクがありますので株式なみにギャンブル性があると言えるでしょう。
 

勝つか負けるかがはっきり分かれるデリバティブは賭博性が高い

株や債券と比べて、デリバティブ取引は勝ち負けがはっきり分かれるためギャンブル性が高いと言えます。

債券や株は企業などが事業で得た利益を配分するため、理論的には参加者すべてが利益を得ることも可能ですが、デリバティブ取引は利益の配分はなく賭けに終始しているため、デリバティブ取引単体で見るとゼロサムゲームです。

ただ、株式や債券などの価値の変動をヘッジする目的で取引したりもするため、完全にギャンブルだとは言えません。

ビットコインは投資ではなくギャンブル

ビットコインは利回りを生まないですし、通貨としての価値もほとんどありません。

通貨には①交換手段、②価値の保存、③価値の尺度という3つの機能がありますが、ビットコインのような暗号資産にはこの3つの機能が欠落しています。

①交換手段
ビットコインで支払えるお店はほとんど無いので、交換手段にはならない

②価値の保存
価格が乱高下しすぎて、保存手段に向かない

③価値の尺度
日経平均が30,000円を超えてバブルだと騒がれているが、ビットコイン建て日経平均は歴史的大暴落
ビットコインはそもそも本源的に価値が無く利回りも生まないため、取引はもっぱらゼロサムゲームです(業者の手数料を考えれば、マイナスサムゲームです)。
さらに、今後もわざわざビットコインの通貨としての価値を高める理由はありません。
あえてビットコインの価値を言えば、マネーロンダリングするには既存の金融ネットワークよりは使い勝手が良いという点でしょう。
いくらブロックチェーンで全ての取引が記録されているって言っても、金融機関を出し抜くよりは簡単です。

先ほど述べた通り、ビットコインは利回りを生まない上に業者が手数料を取るため、取引参加者の中に必ず負ける人が出るようにできてます。

また金融商品としても洗練されたものではないので、ヘッジ手段としての需要もほぼ無いです。

よって、ビットコインなど暗号資産取引は投資ではなくて投機、またはギャンブルです。

ただ、ビットコインの値動きはとてもエキサイティングですし、個人の取引が多いため比較的テクニカル分析に忠実な動きをしていると思うので、遊びの範囲で取引するにはとても楽しいのではないかなと思います。

投資とギャンブルの類似点のまとめ

以上から投資とギャンブルの類似点は、損益の不確実性が高い点、物事の方向性など自分の力ではどうにもならない偶然の結果で損益が確定する点にあると言えます。

一言で投資と言っても、普通の債券のように事故がない限り元本が保証されているものは損益の確実性が高いためギャンブル性が低いと言える商品がある一方で、もっぱら偶然の値動きで利益を狙うようなギャンブル性の高いものまで様々です。

投資の世界では損益の不確実性が高いものをハイリスク商品なんて呼んだりします。

このことから、ハイリスク商品はギャンブルに近い商品であると言えるでしょう。

投資とギャンブルの違う点

これまで、投資とギャンブルの似ている点を見てきましたが、当然投資とギャンブルは別の物であります。

ここでは、投資とギャンブルの違いを見ていきます。

投資とギャンブルとは損益の期待値が決定的に違う

競馬であれパチンコであれ宝くじであれ、ギャンブルの払戻金の原資はお客さんから集めたお金です。

どこからか補助金が出て、それを配っているわけではありません。
当たり前の話ですよね。

そして、お客さんから集めたお金のうちJRAやパチンコ屋などの胴元の取り分を差し引いた分だけが、お客さんに還元されます。

つまり、お客さん全体で見れば胴元の取り分だけ確実に損をしているのです。

JRAの場合、設定払戻率は馬券の種類によって異なりますが、70%~80%に設定されています。
例えば単勝の場合、設定払戻率は80%ですのでお客さんが100円賭けた時の払戻金の期待値は80円になります。
理論上は20円負けるようになっているのですね。

もちろんこれは理論値であり、1回目から万馬券を当てることもあるでしょうから必ずしも損をすることを意味するわけではありません。

しかし、長年競馬をやっていればトータルで損をする人が圧倒的に多いのです。
これはパチンコだろうと競輪だろうと宝くじであろうとカジノであろうと、ギャンブルであれば全部同じことです。


一方で投資は異なる結果となります。

先に進む前に一点申し上げておくと、ここでいう投資とは株式や債券、それを元に組成された投資信託などを念頭に置いています。
FXなどのデリバティブやコモディティ、ビットコインなどはまた事情が異なりますので、後ほど触れます。

話を戻して、まずは株式や債券のそもそもの役割を考えてみます。

株式や債券は、企業側から見ると工場を建てたり商品を仕入れたりする際に必要な資金を調達するための手段であります。

一方で投資家は、今すぐ使わない資金を企業に投資して事業で使ってもらって、その事業で稼いだ利益の分け前にあずかりたいと考えるため投資をするわけです。

これが投資の本質なのです。

昨今の金融市場は非常に高度化しているため、金融緩和だ、FRBの議長の発言だといった本質からかけ離れたマクロ経済的な要因で個別株が動くため投資の本質を忘れてしまいがちですが、株式市場などはあくまでセカンダリーマーケットであり、本質は企業に対してのファイナンスであって、その対価は企業利益です。

話を戻すと、上場している企業の大半は純利益を計上しています

これは非常に重要な話で、先ほどのギャンブルの話では胴元の取り分があるため期待値は100%未満でしたが、投資の場合は全体でみれば企業は儲かっているため期待値は100%より大きいのです。

つまり、投資した人がみんな儲かるということも理論上あり得るわけです。

もちろん、赤字を出したり倒産したりする企業もありますし、タイミングや銘柄選定によって大損してしまう人もいるでしょう。

しかし、株式や債券に正しく投資をすれば、基本的に儲かるのです。

 

 通りすがりの人
またそんなこと言っちゃって、そんなこと言ったらバブル期に株買った人はいまだに損を抱えているじゃないか。

 

と思われる方もいるでしょう。

結論から言えば、バブル期の日本株の平均PERが80倍だったため、それに投資することは正しい投資とは言い難かった状況です

PERが80倍って、その企業の1株あたりの純利益(EPS)80年分ですからね。
EPSが成長しなければ投資しても死ぬまで回収できない水準ですし、よほどの有望な成長企業でない限りPER80倍は正当化できない水準です。

株のことを知らない人でも本来なら違和感を感じるべき水準ですが、熱狂が人を狂わせたんでしょうね・・。

まとめると、

  • ギャンブルは胴元に取り分を持って行かれるため損をするようにできている
  • 投資は企業の利益が還元されるため得をするようにできている

と言えます。

投資の世界に絶対はないですが、基本的な正しい金融知識を身につけ、長期的な視点で時間や投資対象を十分に分散して投資をすればたいてい儲かるはずです。

FXやビットコイン、商品先物はちょっと違う

これらの商品は利回りを生まないので、基本的に需給で動きます。

FXでもスワップポイントが付くため高金利通貨などが有利に思えるかもしれませんが、あれもインフレ率なんかを考えると中長期的には高金利を相殺するように為替レートが動くため意味がありませんね。

それならFXは短期トレードが良いのかって話ですが、もちろんそれで大金を稼いでいる人もたくさんいるでしょうけど、これもギャンブルと一緒で確率的に手数料分やられるようにできています。

 通りすがりの人
じゃあ、何で銀行とか証券会社の為替ディーラーは儲かってるんだよ

って思われるかもしれませんが、彼らは業者なので企業の為替需要だとか外債の発行と言った実需に対してのカンターパーティポジションを取る対価として手数料分頂いているので儲かるようになっています。

さらに、そのポジションをヘッジする手段として為替フォワード取引だとか通貨スワップ、通貨オプションと言った個人では参加できないマーケットにもアクセスできるため、リスクを抑えて利益を取れるようになっています。

つまり、銀行や証券会社は仕事としてトレーディングをやっているわけで、サービスの提供者だから儲かっているのです。

一方で、デイトレーダーはマーケットにおいては最終消費者に位置します。
デイトレでも上手くやれば儲かるのかもしれませんが、そもそも最初から不利な立場にいることはあらかじめ認識しておいた方が良いと思います。


金や銀、石油やトウモロコシなどといったコモディティも利回りを生みません。

しかし、これらは物質としての価値があり実需があるため、それに沿ったプライシングがなされています。


ビットコインなどの暗号資産に関しては、プライシングなんてなくて完全に鉄火場と化してますね。

テクニカル分析がここまで有効なのがその証拠だと言えます。

このババ抜きゲームはどこまで続くのでしょうか・・。

まとめ

以上のことをまとめると、

投資とかギャンブルは儲かるか儲からないか不確実だし、偶然の結果で儲かったり損したりするところが似ている。

一方で違う点としては、投資は企業が頑張って稼いだお金を配分してもらうため儲かるけどギャンブルは胴元の取り分があるから負けるようにできている。

投資といってもデリバティブやコモディティ、ビットコインといったものは事情が異なる。

となります。

私はマーケットの世界で仕事をしていますが、別に投資が高尚だと思わないですし、ギャンブルを否定するつもりもありません。

よく期待値の話を出して「ギャンブルする奴は馬鹿だ」なんて乱暴なことを言う人もいますけど、ギャンブルだって絶対に損するわけではないですし(大体損するけど)、レジャーとして楽しむ分には損したとしてもその分は楽しんだ対価だと思えばいいんじゃないの?って個人的には思います。

私の学生時代の先生は大学生の頃に一日16時間勉強してたそうで、勉強だけだと息が詰まるので毎日30分だけパチンコを打ちに行ってたそうです。
勝とうが負けようが30分。結果負けても息抜きになったので構わなかったそうです。

私も昔、休日にワイワイみんなで競馬場に行ったことがあり、今でも良い思い出です。

もちろんギャンブルは長期的には負ける確率が非常に高く依存性もあるので、のめりこみ過ぎないことが大事ですけどね。

同様に、投資にしても絶対損をしないなんてことはありませんので、熱くならずに余裕のある資金でコツコツやるのが王道かなと思います。

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