近頃「日本は自国通貨建ての国債を発行しているのだからデフォルト(債務不履行)はしない」といった論調を見聞きすることがあります。
でも普通に考えたら、
デフォルトの可能性はあるが、その確率が高いとは書いていません。
後述しますが、現状で日本政府が債務不履行に陥る可能性は極めて低いと思います。
「国債はデフォルトしない」派の論拠
「日本国債のデフォルトはありえない」と論ずる人は多く居り、それぞれ細かい点は違っても概ね次のような主張をしています。
通貨発行権は国家にある
お札を刷って世の中にお金を流通させているのは日本銀行です。
「国債はデフォルトしない」派の第一の主張は、
日本銀行は日本政府が55%出資している子会社のようなものであり、日本政府と日銀を統合政府とみなすことができる。
統合政府が通貨発行権を持っているのだから、その統合政府がいくら自分たちで発行した通貨を他から借りようと、いざとなればお札を刷ればいいんだから返すことができないなんてことはあり得ない。
というものが挙げられます。
だから冒頭で述べたような、自国通貨建ての国債をデフォルトすることはありえないという結論になるわけです。
借金の額ばかりに目を奪われていて、資産に目を向けていない
また、「国債はデフォルトしない」派のもうひとつに意見には、
日本政府の借金は確かにGDPの2倍以上あり莫大な金額だが、資産だって莫大にある。
企業分析だって損益計算書だけでなくバランスシートも見るだろ?
というものもあります。
「国債はデフォルトしない」派の論拠への反論
上で書いた論拠は一見説得力があり、Youtubeやニュースサイトなんかで見ると刺激的で面白い話なのですが、正直ちょっと現実的でないというかファンタジー要素が強いと思います。
日本銀行は日本政府と完全に同じ主体ではない
さきほど「デフォルトしない」派の論拠として、日本銀行は日本政府の子会社で、統合政府として考えるべきと書きました。
これはある側面では正しいのですが、一方日本銀行は日本銀行法に定められた認可法人であり政府機関ではありません。
また、日本銀行法第3条1項で、金融政策決定に関して日銀の独立性が定められております。
もちろん日銀は好き勝手できるわけでないです。
日銀の総裁・副総裁・審議委員は政府が候補を選び国会で承認することによって任命されるため、ある程度政府や国会の意向が日銀の運営に働くことにはなります。
また日本銀行法第4条は「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」と定めており、具体的には必要に応じて政府の代表者が日銀政策決定会合に出席することができます。
そうは言っても、日銀の金融政策の目的は物価の安定であり、日銀政策決定会合で国債の購入が物価の安定を損ねると判断すれば、いくら政府が国債購入を迫っても、日銀は国債購入を拒否することはあり得るのです。
デフォルトしない派の主張する統合政府は、日銀は政府の言う事を何でも聞くかのような話でしたが、現実は日銀には金融政策を独自決定する権限があるのです。
またこれらの役職に任命される人は、長年財務省や日銀、金融機関でキャリアを積んできた人だから、仮に解任されることがあっても職には困らないし、なんなら民間で働いた方が稼げる。
ですので、「日銀は政府の子会社だから、いざとなったら日銀に国債を買わせて資金調達すれば国債の償還や利払いでデフォルトを起こすことはあり得ない」とは言えないのです。
また、現状は日銀による国債の直接引き受けは原則禁止(財政法第5条)されており、発行された国債は一旦は民間投資主体を通さなければなりません。
現時点ではプライマリー・ディーラー制度のおかげで国債は安定消化されていますが、昨今の金融政策を受けて外資系金融や三菱UFJ銀行などがプライマリー・ディーラー資格を返上しています。
資産がたくさんあってもそれを換金できるかは別問題
「国債はデフォルトしない」派はまた、「確かに日本政府は対GDP比で2倍以上の負債を抱えているが、政府・日銀の統合政府は負債に匹敵する巨額の資産を持っている。資産があるため債務超過状態とは言えず、バランスシートを見れば実は日本の財政は健全であると言える。」と主張しています。
資産の有無が信用力に影響する点は私も賛成ですね。
借金が年収の2倍でも家や車・高級時計などの資産が借金額相当以上もっているのであれば、いざとなればそれらを売ってお金を返せますので、借金を踏み倒す悲劇にはつながりにくいと言えます。
ただ、持っている資産がちゃんと現金化できるものであるかは別問題です。
いくら帳簿上は価値があるものでも売れなければ現金化できず国債の償還・利払いに充てることはできませんし、国家の運営上売却が難しい資産もたくさんあります。
資産と一言で言っても流動資産と固定資産に分けることができますが、「国債はデフォルトしない」派は資産の内容まで精査してこの主張をしているは言えず、漠然と「資産があるから大丈夫」って言っているフシがあります。
ちなみに国の連結財務書類(国の一般会計と特別会計、さらに独立行政法人などを合わせた財務諸表)を見ると、コロナが始まる前の令和元年時点で約523兆円の債務超過でした。
一方日銀の令和元年度の資産は604.5兆円に対し、負債は600兆円でした。
ただ負債のうち発行された銀行券110兆円は返済義務のないもの(実質借金ではない)ので、実際の日銀の負債は490兆円くらいです。
一方資産が沢山あるとは言っても、約8割の486兆円は日本国債です。
これらの財務内容をみれば、日本政府と日銀は資産を潤沢に持っているから大丈夫って言うのは楽観的すぎるとは思います。
アメリカだってデフォルトする可能性がある
「デフォルトしない」派の主張は、どこか観念的なところがあり現実を見ていないところがあります。
政府だって人間が運営している以上、観念的にことが運ぶとは限りません。
例えば米国の例を出せば、連邦政府には国債などの発行で借金できる金額の上限が法律で定められています。
財政ファイナンスは強烈なインフレを招く結果になる
ここまで、日銀が銀行券を発行しているからと言って日本政府が国債の利払いや償還をデフォルトしないわけではない、と書いてきましたが、仮に日銀法や財政法を改正して政府は日銀の決定に介入することができ、いつでも日銀は日本国債を直接引き受けられることになったとしましょう。
そうは言っても今は財政出動をする局面
ここまで読んだ方は、
まとめ
自国通貨建ての国債であればデフォルトしないという主張は、金融政策決定の独立性や日銀の国債直接引き受けの禁止などを鑑みると現実的ではないと言えます。
日本政府と日銀の統合政府バランスシートを見ると資産も多く保有していることが見てとれるが、資産の内容は流動性の低い固定資産や、統合政府で見れば資産とは言えない国債といったものが多く、資産と引き換えに借金をチャラにできるわけではない点は注意が必要です。
仮に日銀法や財政法を改正し、日銀の金融政策決定の独立性を否定したり国債の直接引き受けを可能にしても、円の価値が下落して国民に痛みを押し付ける結果となってしまいます。
ただ現状は、長期金利は低位安定しており国債も安定的に消化されているので、財政の緊縮を図るのではなく積極的に財政出動して危機管理投資や成長投資に充てるべきだと考えます。