ユーロ円TIBOR廃止まとめ【ZTIBOR Transition】

2024年末に廃止予定のユーロ円TIBORについて、少しずつ詳細やスケジュールが分かってきましたのでまとめます。

この記事は情報が分かり次第、適宜アップデートしていきます。

2021年末のLIBOR廃止(USD-LIBORは除く)に関しての記事もありますので、併せてご覧頂けたらと思います。

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なおこの記事は適宜アップデートしていきますが、最新の情報をフォローしきれていなかったり不正確である場合もあります。

簡単にユーロ円TIBOR廃止についてまとめた記事ですので、全銀協TIBOR運営機関などの資料も参照されることを推奨いたします。

TIBORについてのおさらい

この記事を読まれてる方の多くはTIBORとは何かということはご存知かと思いますが、一応念のため簡単に触れます。

TIBORの基本

TIBORは正式には「全銀協TIBOR」と呼ばれます。

この記事では「全銀協TIBOR」を必要ない限り単に「TIBOR」と表記します。

TIBORはTokyo InterBank Offered Rateの略で、日本語では「東京銀行間取引金利」と訳すことが多いです。

TIBORは、全国銀行協会の関連団体である「全銀協TIBOR運営機関」より算出・公表されています。

2014年3月31日までは全国銀行協会がTIBORを算出・公表していましたが、2014年4月1日からは全銀協TIBOR運営機関がTIBORを算出・公表しています。
TIBORには、本邦無担保コール市場の実勢を反映した「日本円TIBOR」と、本邦オフショア市場の実勢を反映した「ユーロ円TIBOR」の2つがあります。
 
P’hiro
この記事で取り上げている2024年末に廃止予定のTIBORはユーロ円TIBORの方です。
 
TIBORは毎営業日12時50分頃に公表され、1週間物、1か月物、3か月物、6か月物、1年物の5つのテナー(期間)があります。
TIBORのレートは銀行が企業に貸出しする際の変動金利の指標として用いられたり、デリバティブ取引の原資産になったります。

ざっくりTIBORの算出プロセスの概要

TIBORはLIBORと同様に、「リファレンスバンク」と呼ばれる銀行が呈示するレートを基に算出されます。

2022年9月時点で日本円TIBORは15行、ユーロ円TIBORは14行のリファレンスバンクがあります。

TIBOR算出の方法は、最も高いレートを呈示した2行の値と最も低いレートを呈示した2行の値を除外したものを母数として、単純平均したレートをTIBORとして公表しています。

2012年に発覚したLIBORスキャンダルを受け、全銀協TIBOR運営機関は2017年にTIBOR改革を実施しました。(LIBORスキャンダルについては「わかりやすいLIBOR廃止【LIBOR Transition】」をご覧ください。)

TIBOR改革では、リファレンス・バンクによる呈示レートの算出・決定プロセスの統一・明確化を図るべく、呈示レートの算出・決定において、実際の取引データをはじめとした各種データを優先順位に沿って参照する「ウォーターフォール構造」を導入しました。

これにより恣意的なレートの操作を行う余地を極力排除した、客観的なTIBOR算出プロセスを実現することに至りました。

2つのTIBOR

さきほども書きましたが、TIBORには「日本円TIBOR」と「ユーロ円TIBOR」の2種類があります。

ここでは、それぞれの内容を見ていきます。

日本円TIBOR

1つ目は本邦無担保コール市場の実勢を反映した「日本円TIBOR」です。

これはTIBORの本丸ってやつでしょうね、日本円TIBORはユーロ円TIBORより2年半弱早い、1995年11月から公表されています。

日本円TIBORは実務家の間では「DTIBOR」と呼ばれることが多いです。

無担保コール市場ってのは、国内の銀行など金融機関同士でお金を貸し借りする取引で担保が伴わない取引をする市場で、オーバーナイト物と呼ばれる、今日借りて翌営業日に返す取引が多くみられます。

日本円TIBORの日数計算方式は1年を365日とする、ACT/365Fixedです。

日本円TIBORを算出するにあたって15行のリファレンスバンクは、以下のウォーターフォール構造に従って呈示レートを決定します。

  1. 無担保コール市場のデータ
  2. 本邦オフショア市場などのインターバンク市場のデータ
  3. ホールセール市場を含む関連市場のデータ
  4. 専門家判断

日本円TIBORはユーロ円TIBORと比べて貸出残高・件数ともに圧倒的に多く、最近ではデリバティブ取引も伸ばしてきています。

ユーロ円TIBOR

2つ目は、本邦オフショア市場の実勢を反映する(とされる)「ユーロ円TIBOR」です。

ユーロ円TIBORは1998年3月より公表されています。

日本円TIBORが実務家の間でDTIBORと呼ばれているのに対し、ユーロ円TIBORは「ZTIBOR」と呼ばれます。

 
P’hiro
ディー(D)とズィー(Z)の発音が紛らわしいので、私はZTIBORを「ゼッド・タイボー」と呼ぶこともある。
 
ユーロ円TIBORの日数計算方式は1年を360日とする、ACT/360です。
ちなみにここで言う「ユーロ円」とは、ヨーロッパの通貨ユーロと日本円の為替レートを指すものではないので注意。

ユーロ円とは、在外金融機関や本邦金融機関のオフショア勘定に預託されたり取引される円通貨の事を指します。

ヨーロッパでドルの米国外取引市場が発達したことから、本国以外で取引される通貨を「ユーロ・カレンシー」と呼び、その市場をユーロ市場と呼ぶようになりました。

「ユーロ円」という言葉ほど、市場関係者とそれ以外の人とでイメージするものが異なる金融用語もないでしょう。

つまり、ユーロ円TIBORとは、海外で取引されている円金利の実勢を表している金利指標というわけです。
ユーロTIBORを算出するにあたって14行のリファレンスバンクは、以下のウォーターフォール構造に従って呈示レートを決定します。
  1. 本邦オフショア市場のデータ
  2. 無担保コール市場などのインターバンク市場のデータ
  3. ホールセール市場を含む関連市場のデータ
  4. 専門家判断

ユーロ円TIBORは上記の通りユーロ円市場を第一に反映する金利指標ですが、ユーロ円市場は取引が極めて少ないため、ユーロ円TIBORはユーロ円市場の気配値や無担保コール市場の実勢で決まってしまっているのが実態です。

ユーロ円TIBORは貸出などで参照されることは少なく、デリバティブ取引の原資産として用いられることが多いです。

そして、このユーロ円TIBORは2024年末をもって公表停止となる予定です。

なぜユーロ円TIBORは廃止の流れになったのか

20年以上TIBORは日本円TIBORとユーロ円TIBORの二本立てで運営されてきたわけですが、どうやら2024年12月末をもってユーロ円TIBORは公表停止される方向に向かっているようです。

その最大の理由は、参照するユーロ円市場の取引が非常に少ない点にあります。

「金融指標に関するIOSCOの原則」の原則7には以下の通り定められいています。

指標の決定に使用するデータは、指標が計測する「価値」を正確かつ高い信頼性をもって反映するのに十分であるべきである。
この点、ユーロ円市場の取引が非常に少ないため、リファレンスバンクが呈示するレートがウォーターフォール第1順位の「本邦オフショア市場のデータ」で決定される割合が低くなってしまっています。
 
P’hiro
「本邦オフショア市場」と「ユーロ円市場」はほぼ同じ意味です。
 
これではユーロ円市場の価値を測定することが難しく、ユーロ円TIBORが正確かつ高い信頼性をもってユーロ円市場金利を反映しているとは言い難いです。
そこでIOSCOの原則に合致するための解決策として、ユーロ円TIBORを廃止することが有力な案となっています。
 
さらに、ユーロ円TIBORは貸出などで運用されている割合が少ない点や、JSCC(日本証券クリアリング機構)による日本円TIBORの金利スワップ取引のクリアリングが行われるようになった点も、ユーロ円TIBORの廃止を後押ししたと言えます。
 

ユーロ円TIBORの廃止の手続きについて

ユーロ円TIBORの廃止の手続きは、基本的にLIBOR廃止時と同様のフレームワークで行われると思います。

移行とフォールバック

ユーロ円TIBORの廃止後もユーロ円TIBORを参照する契約は残るわけなので、ユーロ円TIBORが廃止された後に残る契約が参照する後継金利をどう設定するかについて検討が必要です。

そこで、移行とフォールバックについて説明します。

移行・・ユーロ円TIBOR停止前に既存のユーロ円TIBORの契約内容を変更したり新規の契約を締結するなどして、日本円TIBORなど別の指標契約に切り替えること。

フォールバック・・既存のユーロ円TIBORの契約はそのままで、あらかじめ後継金利などを定めておく方法

上記のうち問題となるのはフォールバックです。

フォールバックの論点

フォールバックの場合、後継金利をどうするかや、どのタイミングでフォールバックするかのトリガーをどのように設定するかなどが揉めるポイントです。

ユーロ円TIBORの後継金利は、

後継金利 = フォールバックレート   +  スプレッド調整値

に分解できます。

このうち、論点となり得るのは①フォールバックレートを日本円TIBORやTONA OISなどどの指標にするのか、②スプレッド調整値をどう設定するか、です。

この後継金利がユーロ円TIBORに近似するようなスプレッド調整をして価値の移転を最小限することを目指すのですが、このスプレッドをどのように算出するのかはなかなか難しい問題です。

既存の契約をユーロ円TIBORから後継金利に変えることによって、契約当事者のどちらかが得をしてもう一方が損をすることを価値の移転といいます

フォールバックレートの設定

2022年8月1日に全銀協TIBOR運営機関より公表された「全銀協TIBORのフォールバックに係る論点に関する市中協議」というペーパーによれば、ユーロ円TIBORのフォールバックレートの候補は以下の通りです。

  1. TONA複利(後決め)
  2. ターム物RFR(TORFのことだと思う)
  3. 日本円TIBOR

上記の通り、ペーパーによればフォールバックレートの最有力候補はTONA複利です。

LIBORをはじめIBORsのフォールバックレートとして世界的に後決めRFR(リスクフリーレート)が選好されたことから、IBORsのひとつであるユーロ円TIBORについても後決めRFRであるTONA複利が第一候補になる流れなのでしょう。

私は当初、ユーロ円TIBORは日本円TIBORに統合される形だと漠然と思っていたので、フォールバックレートも日本円TIBORが最有力候補だと思っていました。

第2候補のターム物RFRについては、短期TONA OIS市場の流動性の低さなどから、実際に利用できるようになるのは当分先と言うのが市場関係者の見立てです。

第3候補の日本円TIBORについては、契約当事者の合意があればフォールバックレートとして用いることが妨げられるわけではありません。

スプレッド調整値の設定

次にユーロ円TIBORのフォールバックによるスプレッド調整値の設定について、市中協議のペーパーではLIBOR移行にならい以下の通りまとめました。

フォールバックレートがTONA複利(後決め)、タームRFR(TORF)の場合・・
過去5年のフォールバックレートとユーロ円TIBORとのスプレッドの中央値

フォールバックレートが日本円TIBORの場合・・・
→ 当事者の合意に基づき設定

 
LIBOR廃止の際ISDAデリバティブでは、後決めRFR(日本ではTONA複利)やターム物RFRについて過去5年の中央値アプローチを採用しました。

トリガー

トリガーとは、ユーロ円TIBORから後継金利に承継する条件を定めたフォールバックの発動要件を指します。

「後継金利に承継する条件」とは、先ほど見てきたフォールバックレートやスプレッド調整等に関する条件のことです。

つまり、トリガーが発動されるとフォールバックの諸条件が固まるということですね。

LIBOR廃止の際は、2021年3月にFCA(英国金融行為規制機構)の声明により、USD-LIBORを除くLIBORが2021年末をもって廃止されることが決定されるとともに、その時点をもってスプレッド調整値が確定しました(公表停止トリガー)。
市中協議ペーパーでは想定されるトリガーを以下の3つに分類しました。
  • 公表停止トリガー
  • 公表停止前トリガ―
  • その他のトリガー
  • 全銀協TIBOR運営機関が、TIBORの公表停止または公表停止予定を発表した場合
  • 全銀協TIBOR運営機関の監督当局(金融庁)等が、TIBORの公表停止または公表停止予定を発表した場合
全銀協TIBOR運営機関の監督当局等により、TIBORの金利指標性の喪失が決定された旨の公式声明が発表された場合
当ブログではユーロ円TIBORに関して、全銀協TIBOR運営機関がTIBORの公表停止予定を発表する公表停止トリガーが発動される蓋然性が高いと考えます。

ユーロ円TIBORの公表停止までのスケジュール

ユーロ円TIBORの廃止までのスケジュールは、市中協議ペーパーによると、

  1. 2022年8月1日~9月30日 市中協議への意見集約
  2. 2022年度内 市中協議の結果発表
  3. 2023年度内 ユーロ円TIBORの公表停止の実施可否に関する市中協議の実施
  4. 未定 ユーロ円TIBORの公表停止の実施可否に関する市中協議の結果発表
  5. 2024年12月末 ユーロ円TIBORの公表停止

となっております。

おそらく④の時点かその直後がフォールバックのトリガー発動となると私は予想します。

今年前半時点で私は、2022年中のトリガー発動もあり得るかなと思っていましたが、このスケジュール感だと2024年中にトリガー発動となりそうですね。

最近はユーロ円TIBORの流動性が以前と比べて落ちてきていますが、まだしばらくはユーロ円TIBORの取引が続きそうです。

おわりに

ユーロ円TIBORの廃止についてはまだ端緒の段階ですので、今回は市中会議のペーパーとLIBOR廃止時の情報を元に記事を書きました。

今後も情報はアップデートしていきます。

それに伴って内容が大きく変わることもありますのでご了承ください。

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